Hanashyo Project Report

日本硝子工芸研究室は、これからの日本の硝子工芸の在るべき姿を模索するために設立されました。当コラムでは、ガラス職人としてのプロフェショナルな視点で、新しい技・デザイン・作品の在り方などについての研究レポートをご紹介しいきます。

はじめに

日本硝子工芸研究室とは…

この研究室のモットーは
「日本の硝子文化をつくっていこう」
という未来思考で成り立っています。

日本の文化というと、漆器や陶器のイメージが強く、まだまだ権力志向の強いこの国では
「ガラスは新参者だから『その他工芸』でいいよね」の扱いなんですけれども、
ガラス自体は弥生時代から存在していたともいわれていて、
たまたまお茶道文化にガラスの登場が少なかったということで、
日本のガラス文化というのは、あまりきちんと整備されてこなかったのが現状です。

歴史をきちんと学ぶこともいいのですが、過去にとらわれがちの工芸的な考えよりも、この研究室では
「これから、日本でガラス工芸をどうやって楽しみましょうかねえ」
という考えをもとに、とにかく、ガラスの職人さんからのリアルな知識を発信していこうじゃないかということを進めていきます。

また、研究室なので、
「これから新しい技・デザイン・作品の在り方の可能性」
も探り続けてきます。

つまり、日本のガラス工芸の最先端のお話を専門家が考え、発表していくための場ということになります。
発表は随時不定期掲載ということで、これから「リアル日本のガラス文化」を発表していきます。

今回のテーマ

磨く(polish)

1 磨くとは

第一回目のテーマは「磨く」ということ。
江戸切子なのに「カット」じゃなくて一回目のテーマは「磨く」。
実はガラスの美しさを決めるのは「色」と「輝き」。
もちろんデザインの美しさもあるけれども、ガラスの醍醐味はあのキラキラ感なのだから、「輝き」は命になります。

2 方法

その「輝き」。以下の方法で実現されます。

(1) 硝子はカット後は曇りガラスの状態(写真1)
(2) 赤いマジックは「磨いてね」の印(写真2)
(3) 曇りガラスを輝かせる ⇒ 手で磨く(写真3 )

「磨き」に関して、弊社では独自の「磨き」の研究を行ってきました。
実は、機械は弊社のオリジナル。機械の組み立ても自社で行っています。
そのため詳細はここで記載できないのですが

一つの線をカットするよりも磨くほうが時間がかかる

くらいに磨きにウエイトを置いた作業を行っています。
磨きたての作品 (写真4)どろどろです。
泥を落とすと美しい姫が・・・ではないのですが、
泥(と便宜上呼びます。これも企業秘密)を落とすと
こんなに美しい作品 (写真5)に。

3 酸磨きと手磨きの比較

華硝では全作品を「手」で磨いているのですが、
ほとんど市場にでまわっているカットした硝子のほとんどは「酸」=薬品で磨いています。
それを「酸磨き」と呼ぶのですが、
(1) 硫酸とフッ化水素という薬品に
(2) 曇りガラスの状態のものを
(3) つける ⇒ 完成
といった方法を用いています。

手磨きとの違いは「薬品」のおかげで「手」の技術はいらないこと。
その違いは右の写真の比較でわかります。

同じ「磨く」という言葉でも、用いるものが「技」か「薬品」かでは、できあがりが変わります。

ポイントは
」⇒ あせていないかどうか
手触り」 ⇒ カットのエッジはあるかどうか
透明感」 ⇒ 透明度は高いかどうか

もっといってしまえば「手磨き」のものはたわしで洗うことも可能です。(写真6)
硫酸で弱った体に、たわしはきついですね。
・・・ということで、ガラスの硬さがそのままなので、お手入れは簡単に済みます。

4 まとめ

カットしたガラスには「手磨き」と「酸磨き」の仕上げの2つがあります。

日本は手仕事・技術の国ということであれば、「手」にこだわっていくことが日本のガラスの確立のために必要だと考えます。